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とまっている野鳥は運次第、飛んでいる野鳥は運+α
とまっている野鳥は難しいことはない。カメラの設定さえ正しくできていれば誰でも撮れる。出会うことができるかというのが一番大きな問題になるだろう。
出会う確率を上げるために、狙う野鳥の種の習性を知り、実際にフィールドに何度も足を運んで、そこにいる個体の動きを知る必要がる。だから初めてのフィールドでは、出会えるかどうかは完全に運任せという感じ。
飛んでいる姿を撮りたいというのであれば、運だけでは難しい。撮影テクニックも必要になってくる。
背景が空(空バック)であまり被写体が近くなければ入門編で紹介した方法で撮れるはず。でも空バックで撮るということは、基本的に野鳥の下面が見える形となる。横(あるいは正面)から撮りたいと思うのであれば、空バックで撮るときとは違う撮り方をしなくてはならないのだ。
空バックの撮影が簡単な理由
- AFの動きを邪魔するものがほとんどない
- 明るさの変化が少ない
AFスポットを野鳥に合わせ続けてコンティニュアスAFで撮影するのが基本だけれど、空しか被写体の周りになければ、多少AFスポットが被写体から外れてもAFが他の場所を被写体として捉えてしまうことはほとんどない。つまりピント合わせが簡単。
また、空は太陽付近でなければ明るさがほぼ一定なので、一度セットしたISO感度や露出補整の値を変更する必要もない。カメラのセッティングを変更する必要が少ないから簡単。
上記のような理由から空バックは飛んでいるところを撮る練習に向いていると言うことができるだろう。入門編で紹介したのもこれらの理由から。
では、応用編の今回はどんな状況で撮影することを前提としているか説明しよう。
- 背景が空以外(斜面とか木立とか)
- 手前に障害物が入ることがある
- 十分な明るさがない
- 飛ぶスピードが速い
上の例は低いところを飛んでいる野鳥を撮るときによく出会うシチュエーションだ。背景が単調な空ではない状態。つまりAFが被写体を捉え続けられない可能性がある例になる。飛んでいるところを発見して野鳥にAFスポットを合わせてAFをオンにしても野鳥にピントが合わず後ろの木などにピントがあってしまうパターン。
手前に障害物が入るというのはAFスポットを野鳥に合わせて追っているときに、カメラと被写体との間に障害物が入る状態。これまた空バック以外で撮影しているとよく出会う場面だ。これもAFが被写体から外れてしまう原因となる。上の例では障害物はあまり大きくないけれど、障害物の後ろを飛んでいる姿が視認できないことも結構ある。
明るさは、撮影する時間帯が夕暮れ時などの場合。トップの写真は日没直後くらいに撮影したもので、写真よりも実際は暗い中で撮影している。
飛ぶスピードが速いというのは、カワセミやツバメのように速いスピードで飛ぶ野鳥を撮るパターンだと考えてほしい。
空以外の背景で飛ぶ姿を撮るには?
このパターンで注意すべきはAFの動きだ。まずAFスポットは1点AFとする。これは領域拡張AFスポットだとバックの木立などを被写体として捉えてしまう可能性が大きくなるからだ。1点だけなので、ファインダーをのぞきながら被写体をAFスポットで捉え続けるため難易度が高くなる。
空バックから斜面バックに移行する場合は被写体をAFスポットに捉えていられれば、被写体にピントを合わせ続けてくれる。しかし急な方向転換などでAFスポットから被写体が外れてしまった場合、背景である木立にピントが合ってしまうことがある。
こうなってしまった場合の対処法は、ピントが被写体から背景に移ってしまったら直ぐにAFをオフにして、AFスポットで被写体を捉えなおして再度AFをオンにする。大きくピントがズレてしまうとAFをオンにしても動かないことがある。その時は手でピントリングを回してある程度ピントが合った状態にしてからAFをオンにする必要がある。
AFをオンにする方法は親指AFがオススメ。適当に親指でAFオンオフを繰り返してもシャッターが切れてしまうことがないからだ。
あらかじめ自分からの距離が●m以上離れてるとわかる時はAFの合う範囲を制限するスイッチがついているレンズもあるので設定してしまうのも手だ。僕は飛んでいる野鳥を撮るときはまず10m以内はないと考えて10m~無限遠の範囲でAFが動作するようにレンズで設定している。
被写体との間に障害物が入り込むときはどうする?
まず、デジタル一眼レフカメラは測距点よりも小さい被写体をメインとして開発されていないということを覚えておこう。基本は風景だったり人間だったりが対象となっている。超望遠レンズだって1km先のオオタカを撮るために開発されたわけではなく、広い競技場内の選手だったり、数十~数百m先の野生動物(主に哺乳類)が対象だったりするわけだ。
なので、手前に被写体よりも大きなものが入ってくると、そちらがメインの被写体だとカメラが判断してピントをそちらに合わせてしまう。
AFスポットで捉えた被写体をどの程度追いかけるかの設定というのがどの一眼レフにもあると思う。手元にあるカメラが全部キヤノンなので、キヤノンの例を挙げておく。他のメーカーでもAFの設定で似たようなものがあると思う。
僕がいつも使っている設定はコレ。基本は一番汎用性の高い設定だけれど、被写体追従特性だけ1段落としている。これをマイナス側にするとAFスポットから被写体が外れても少し粘ってくれる。
コンティニュアスAFでシャッターを押して1コマ目の動き。ピントが合わないとシャッターが切れないようにしてある。ピントの合ってない写真を撮っても意味がないからだ。
手前の障害物などにピントが合ってしまって、再び被写体にピントを合わせてAFをオンにしても大きくピントがズレている場合は動かないようにしている。変にカメラがピントを合わせようとして時間を無駄にするよりも手でピントリングを回してある程度ピントを合わせた方が速いため。
コンティニュアスAFの動きは個人の操作にも関係してくるので、僕の設定が完全な正解という訳ではない。自分の機材でいろいろと試してみてほしい。
暗いときの撮影はどうする?
夜明け前のかなり暗い時間帯から野鳥はすでに活動を開始している。繁殖期にはオスがメスの気を引くために囀ったりするし、求愛行動の一環として特徴的な飛び方をすることもある。また、日没前後から夜行性の野鳥は活動を開始する。そうするとこの時間に飛んでいる姿を撮るにはかなり暗い中での撮影をすることになる。
こんな時の対処方法はISOの設定と露出補整。夜明け時、日没時は明るさの変化が大きいのでそれに合わせて設定を変えつつというのは現実的ではない。そこでISO設定はオートを使ってしまう。飛んでいる鳥をカメラで追いつつ撮影するのでシャッタースピードはなるべく速くしよう。
上の写真は暗い中で撮影したものの例がうまく見つけられなかったので、日没後30分くらいたったときにとっさに撮ったホンドギツネの失敗したやつ(笑)
ISOオートの設定は自分の許容範囲内の最大値にする
自分の使っているカメラでISOをどこまで上げると許容できないくらいノイズが出るのか把握しておこう。僕的には上の写真くらいが許容範囲の上限値。ISO6400で撮影して、ピクセル等倍で見た時にこれくらいのノイズだったら現像でなんとかできるかなというもの。
ISOオートを使うとき、僕は大きく分けて3パターンほど使い分けている。
- 極力ノイズは出したくない(大きなプリント用)
- 汎用的に使える設定
- 多少ノイズが出てもブレを防ぐ
1は作品と言えるレベルの写真を撮るための設定。ISOは固定値で設定してしまう場合がほとんどだけど、飛んでいる野鳥を撮るときは明るいところから暗いところへ移動もよくあるのでオートの方が撮影に集中できる。その代わり極力ノイズを減らす方向での設定となるのでISOの範囲は50~800にしている。シャッタースピードの下限は1/2000。
2は日の出時、日没時に野鳥を撮るときに汎用的に使う設定。ISOオートの範囲は50~6400。シャッタースピードの下限は1/2000。
3はまず被写体ブレ、手ブレを確実に防いでシャープに移すことを目的とした設定。ISOオートの範囲は50~12800(あまりに暗いときは25600)。シャッタースピードの下限は1/2000。
どの設定でも共通してるのはシャッタースピードの下限を1/2000にしてあること。1/1000だとちょっと激しい動きを追っているときにブレることがあるので1/2000にしてある。日没後なんかはISO設定の最大値になっても1/2000に届かない。肉眼で100m先の被写体が視認できないほど暗くなったら撮影はもうあきらめてしまうのが僕のスタイル。
これが汎用的に使える僕の設定。暗いけどもっとシャッタースピードが欲しいというときはISOオートの範囲を12800にしたり25600にしたりする。
露出補正も併用する
測距点で明るさを測定するスポット測光を使っていると、被写体が白っぽかったりすると周囲がとても暗く写ってしまうことがある。RAW現像で救うことが出来る範囲がほとんどなのだけど、仕事では加工していない撮って出しのJPEGが必要なこともあるため、暗いときは露出補正で+1~+2くらい明るめに撮影するようにしている。
空バックの時も飛んでいる野鳥が黒く写ってしまうことがある。これはAFスポットと同じくらいの大きさか、それよりも小さいときに起きやすい現象。測光するときに周囲の空の明るい情報も取得して明るさを決定してしまっているから。
こんな時は露出補正を+2くらいにしてあげるといい。空はかなり白くなるけれど野鳥はしっかりと写すことができる。曇りの場合は+1くらい。自分のカメラでテストして最適な値を見つけてみてほしい。
上のノスリは最初のが露出補正なしのもの。下のやつが露出補正+1で撮影したもの。太陽が直に入る完全逆光だと白く飛んでしまう部分が出てくるのでRAW現像で救うのは難しい場合もある。そうでなければ現像時にハイライト、白レベルを下げてあげることで野鳥は明るく写ったまま空を普通の状態まで戻すことができる。
これが僕の設定。露出補正をプラスにして、無加工でも野鳥の下面が綺麗に見えるようにしてある。
また、どんな天候であっても背景が空でなくなったときは露出補正+2は確実に明るすぎる写真となってしまうので0くらいまで下げること。空バックから降下してきて背景が空から切り替わることは多いのでファインダーを覗きながら露出補正を設定できるように慣れておこう。
空を飛んでいる野鳥を撮影する設定で普通の背景の鳥を撮るとこうなるという失敗例が上の写真。
速い動きはどうやって撮る?
目の前を横切るツバメを撮ろうとした場合、どういう動きが必要か考えてみよう。
- ツバメを発見
- カメラを構える
- ファインダーで捉えてAFオン
- 追いかけつつピントが合ったらシャッターを切る
突然目の前に出てきた姿を撮るなんてのは現実的じゃない。
数年前にツバメが水を飲んでいるシーンを撮りたくて、毎日撮影に行ったことがあったのだけど、とても苦労した。
毎朝日の出前後にツバメの群れが水を飲みにやってくる場所を見つけ、そこに毎日通ってツバメの動きを観察しながら撮影に挑戦して、撮ったのが上の一枚。
現像時にトリミングと色調整をして仕上げるとこうなる。
ツバメはちょっと極端な例になるけれど、素早い動きの野鳥の飛んでいる姿を撮りたいというのであればこんなことに気を付けて挑戦してみてほしい。
- 焦点距離の長いレンズで距離をとって大きく写す
- カメラは常に顔の前に
- ファインダーに捉えてピントを合わせるための時間が確保できる場所を探す
- 素早く動かせる雲台を使う
焦点距離の長いレンズで距離をとって大きく写す
距離をおいて、超望遠レンズで撮影するのは角速度の問題。近くを飛ぶ野鳥をファインダーで捉え続けるにはカメラを相当速く大きく動かさないとならないので追いかけるのが難しい。しかし距離があればカメラはあまり早く動かさなくて済む。
カメラは常に顔の前に
ファインダーを覗きつつ、左目で被写体を探すという方法もあるのだけど右方向がカメラのせいで死角になるので僕はすぐにファインダーを覗ける位置に顔を持ってきて撮影できそうな動きをするツバメを探すことにした。
ファインダーに捉えてピントを合わせるための時間が確保できる場所を探す
ある程度飛んでいる姿が見える場所で撮影するのが大事。飛ぶスピードが遅いカモ類やサギ類を撮影して練習してみて、見つけてからどれくらいの時間でピントを合わせ終わるかを確認しよう。小さくスピードが速い野鳥はもう少し時間がかかるはずなので、それを目安にして、その時間を確保できる場所で待つ。
素早く動かせる雲台を使う
見つけた野鳥にカメラを素早く向けなくてはならないのでスムーズに素早く動かせる雲台を使う。いつチャンスがやってくるか分からないので手持ちは現実的じゃないのだ。指1本でも動かせるジンバル雲台が向いていると思う。ビデオ雲台の場合はパンもチルトもフルードの抵抗を一番弱くする。
まとめ
今回は応用編としていろいろな場面で対応できる方法を紹介してみた。野生動物という動きを予想することが難しい相手なので、100%という方法はないと思う。
対象となる野鳥をどれだけよく観察できるかというのも技術と同じように大切で、これなしで撮ったものは「撮った」ではなく「(偶然)撮れた」になってしまう。意図して思い描いた絵が撮れたときの快感は風景だろうと動物だろうと人物だろうと一緒だろう。
是非、「撮った」といえる写真を撮ることを目指してみてほしい。